世界に羽ばたけ!
日本女子のエーススプリンター

上月スポーツ賞受賞は「最高に幸せ」

厳しい練習で鍛えた驚異の腹筋

ほっそりした体型、抜群のプロポーション、穏やかな物腰。丸の内のビル街をビジネススーツで歩いていたら、スポーツ選手には見えない。この女性がいったんセパレーツ型ユニホーム姿に着替えると、贅肉のない鍛え抜かれたボディーが現れる。福島千里、23歳。
165cm、52kg。日本女子陸上短距離界を引っ張るエーススプリンターである。今シーズンに向けて調子は上向き。
ロンドンオリンピックの100m、200mで男女を通じ日本人初の決勝進出を狙っている。

2008年を境に福島は好タイムを次々とマーク、頭角を現してきた。この年の4月、100mで11秒36の日本タイ記録。6月の日本選手権では11秒48 で初優勝、その後も順調に好記録を出し、急成長したことと将来性を買われて北京オリンピック代表に抜擢された。この時期から財団の「スポーツ選手支援事業」の支援対象者として、年間60万円の助成を受ける。「嬉しかった。学生だったのですごく助かりました。最初に低周波の治療器を買いました」。
財団からの支援が経済的なものだけでなく、有望選手と見なされることに誇りを感じていた。

100mと200mの2 冠を達成。国旗を広げて歓声に応える(2010年11月25日、第16回アジア競技大会〈2010/ 広州〉)

北京オリンピックでは1次予選敗退。それでも福島は楽しんで帰ってきた。翌2009年、福島の本領が発揮される。
5月に200mで23秒14 の日本新記録。6月には100mで11秒28、11秒24 と1日で2回も日本記録を更新する快挙を演じた。同月の日本選手権200mでは自己の持つ日本記録を0秒14短縮して優勝。8月のベルリン世界選手権での2 次予選進出は、オリンピックも含め1932年の渡辺すみ子さん以来77年ぶりのことだった。

2010年も好調は続く。春先に100m11秒21 の日本新記録をマークすると、5月には200mで初めて23秒の壁を破る22秒89 の日本新。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。11月のアジア競技大会(広州)では100m、200mの2冠を達成した。

女子200m、金メダルを獲得した走り(2010年11月25日、第16回アジア競技大会〈2010/広州〉)

100mと200mの2種目での準決勝進出は、日本人女子初(2011年8月28日、第13回IAAF 世界陸上競技選手権大会大邱(テグ)大会)

この活躍が認められ、上月スポーツ賞を受賞した。「歴代の受賞者は世界で活躍した人ばかり。私はアジア競技大会の表彰対象だったので、もっとレベルを高くしなければと思いました。でも選ばれて最高に幸せ」と、はにかみながら語る。

2011年、世界選手権(大邱テグ)の100m、200mでは準決勝進出を果たした。準決勝ではともに敗退したが、世界選手権での両種目準決勝進出は日本人女子初の快挙だった。

練習は厳しい。独特のトレーニングメニュー。天井からぶら下げた赤いコードに足をひっかけ、逆さ吊りで上半身を引き起こす。「アンバランスな状態だから、これをするとインナーマッスルや体幹部分が鍛えられる」と福島。見事に割れた驚異の腹筋はこうしたトレーニングの集大成なのだ。練習時間は3時間と意外に短いと思われがちだが、集中して内容を濃くしている。もちろん、ウエイトトレーニングも欠かさない。練習場はインドアで室内温度が年中20℃に保たれ、冬季でもスピード練習が可能な日本一の施設である。

福島を大きく成長させた周りのサポート体制も忘れてはならない。体力、筋力を付け、健康を保つために1日3,000カロリーを摂取しなければならない。栄養士に毎月1回、北海道まで来てもらう。「栄養が付くように指導してくれます。でもあまり食べられない」と本音を漏らす。軽い捻挫や体調を崩すこともあるため、専属のトレーナーも付けてもらう。「本当は何でも自分でやらないといけないのですが、記録が伸びたり、大試合で好成績を挙げたりできたのは家族をはじめ、スタッフなど周りの方たちがリラックスさせてくれるなど常に気を遣ってくれる、ありがたくてつくづく感謝しています」。

福島の挑戦はいつまで続くのか。「ロンドンが終わると、リオデジャネイロ(2016年オリンピック)を目指すと思います。自分だけの夢ではないし、やれるだけやる。やりきっていないうちは(挑戦を)やめませんよ」と、決意を語る目は真剣そのもの。

「とにかく今年は、北京オリンピックからの4年間で経験したすべての力を出すことを目標に掲げています」。
試練の先に見える希望の光。福島は再び上月スポーツ賞を獲得しようと猛練習を重ねていく。
(2012年2月15日取材)

2011年度「上月スポーツ賞」表彰式 (2011年9月13日)

福島千里(23歳)
陸上女子短距離
北海道ハイテクAC所属