第6章
「あっという間の30年、まだ発展途上です」
~大きなテーマは震災の復興支援~
2010 - 2012

平成22年~24年

教育-文化-スポーツ。この流れの中で、時代の要請に応えながら各事業を推し進めてきた「財団法人上月スポーツ・教育財団」。上月景正理事長は「あっという間の30年」と振り返った。東京と神戸にあった事務局を東京に集約して、全国的な活動を加速した。漫画家・アニメーター育成、ベンチャービジネス支援、教育・文化振興助成、情報教育研究助成をはじめ、スポーツ関連事業も充実し、活動は拡がりを見せていった。

兵庫県で産声を上げた上月教育財団。上月景正理事長は民間人が教育への支援を積極的に行っている欧米の状況を見て回り、企業活動で得た利益を社会のために役立てたいとの考えを持っていた。

特定の地域だけでなく、日本全体に目を向けようとの方針で、東京を拠点に全国展開に至った。まず、上月情報教育財団をつくり、次のステップとしてスポーツ財団の道へ。2005年の3財団統合時には、それぞれの所管が異なり、これを一本化していかなければならず、その苦労、努力は並大抵のものではなかった。

節目の設立20周年の2002年からスポーツ分野に入っていき、スポーツへの支援は財団が果たすべき役割とのスタンスで活動してきた。そして、現在までの10年間、確かな手応えをつかんでいる。

「少しは社会のお役に立っているかな。でもこれで十分とは思っていません。30年は一つの区切りですが、もう少し選手のニーズに合った支援の仕方があると思います。まだまだ発展途上ですよ」と上月景正理事長。現在、支援する競技団体は水泳、体操、柔道、スキー、スケート、陸上競技、バレーボール、卓球、テニス、バドミントン、フェンシング、ゴルフの12競技に及ぶ。

財団設立の動機、その原点は何か―。「それはハングリーです」と上月景正理事長はきっぱり言い切った。自分自身、お腹を空かせて学校に通っていたという。「経済的に苦しい環境の子どもたちが、しっかりと教育を受けられるようにしたい」という純粋な思いから、財団の設立に突き進んだのである。

「スポーツ選手支援事業」を始めたそもそもの基本的考え方は、スポーツで頑張ることを経済的理由であきらめかけている選手に救いの手を差しのべることである。「もうアルバイトをしなくてもいい」と再びチャレンジする選手もいる。上月景正理事長は「もうあと100、200名ぐらい支援したい。その中からキラリと光る選手が出てくる。幅広く掘らないとダイヤモンドの原石は出てこない」と言う。

2011年度からは東日本大震災で被災した選手を含む83名を支援している。少しでも勇気につながればという気持ちから出た計画である。

「スポーツ選手支援事業」の対象になった塚田真希選手は2004年アテネオリンピック柔道女子78kg超級で見事金メダルを獲得し、「上月スポーツ賞」が授与された。また、フィギュアスケートの髙橋大輔、スピードスケートの長島圭一郎、体操の内村航平、陸上の福島千里ら有望選手を発掘して応援してきた。

上月景正理事長は自ら興したコナミ株式会社の株式を証券取引所に上場する前に、財団法人を設立したかったという。財団設立のために株式を寄附したその意図は何だろうか。

「上場前に寄附しておけば、話題になりません。世間の話題になることは、本意ではないのです。しかし、上場後に設立すると、PRだとか売名行為ではないかなどとあらぬ誤解をされかねませんから」。

質実につつましく、しかし確実に社会の一隅を照らしたいという強い思いがあったのである。

当初、奨学助成事業により創造性に富む個性ゆたかな青少年育成の一端を担い、さらに、教育・文化の振興に寄与し、広く社会に貢献したいと願って設立された財団は、情報教育とスポーツ分野を包含し、支援対象を児童・生徒・学生から社会人にまでと広げてきた。わが国のスポーツ・教育・文化の振興と発展、ならびに国民のクオリティ・オブ・ライフの向上に寄与したいという思いは、社会に浸透して認知されてきた。

2010年11月には、文部科学大臣よりスポーツ功労団体表彰を受けた。このほか、スポーツの発展に寄与した功績に対し、日本体育協会と日本オリンピック委員会(JOC)から感謝状を受領し、全日本スキー連盟、日本水泳連盟、日本卓球協会など各競技団体からも支援に対し感謝状をいただいた。

今後、財団の進むべき道、課題の一つには東日本大震災への復興支援がある。非常に大きなテーマであり、どのようにサポートしていくかが重要課題である。時代のニーズを見極めて、望まれている社会貢献を着実に一歩一歩果たしていく所存である。

2011年度「上月スポーツ選手支援事業」認定式、「上月スポーツ賞」表彰式(2011年9月13日)

文部科学大臣よりスポーツ功労団体表彰(2010年11月1日)

スポーツ功労団体表彰状(2010年11月1日)

第9回(2012年度)「漫画家・アニメーター育成事業」二次審査会(2012年7月3日)